今や日本を代表するバンドへと躍進を果たしたOfficial髭男dism。そのメロディや歌、歌詞のよさについてはもはや説明不要だが、彼らのサウンドがいかにして構築されているかはあまり知られていない。そこで、8月5日にリリースされる『HELLO EP』のメンバー解説を通じて、多くの人の胸を打つヒゲダンサウンドの裏側に迫った。そこから見えてきたのは、彼らの高いミュージシャンシップと鉄壁のチームワーク、そして音楽とバンドへの深い愛情だった……とは言え、そんなに込み入った話ではないので、気楽に読んで下さい。いい音楽ってこういう環境から生まれてくるんだなあ。
――では、新作『HELLO EP』についてお聞きします。今回、曲の制作タイミングはそれぞれバラバラだったんですか。
藤原本格的に曲として完成させるために着手したのはけっこうバラバラだったと思います。去年の秋頃から1曲ずつつくっていったような感じですね。
――それらの曲を集めてなぜEPという形にまとめたんでしょうか。
藤原シングルとして1枚1枚出していくのはちょっと大変だなと思いまして。どの曲もほとんど同時期にCMとかで流れ始めたので、同じタイミングでCDが3枚出てきたら「どれ聴きゃいいねん」みたいになるじゃないですか。なので、今回はEPという形の“おまとめプラン”にしました。
――それぞれの楽曲がいいのはもちろんのこと、4曲目にピアノ弾き語りのバラード「夏模様の猫」が入ったことで作品としてのトータル感がグッと高まったなと。
藤原それはみんなでけっこう話し合ったところで、しっかり1枚の作品として聴いてほしいし、「なんかもう1曲あるほうが幸せだね」っていう話になって。
――「幸せだね」ってなんかいいですね。
藤原実は、「夏模様の猫」ってアマチュアとしてCDを手売りしていた時代の曲の再録で、この曲が作品としてハマったのはよかったなと思います。EPとして1枚に収められている良さがさらに出たと思います。
――もとからピアノ弾き語りの曲なんですか。
藤原当時よりピアノと歌が多少上手になっていたり、音がよくなっていたりっていう成長はあるかもしれないですけど、中身はいじってないです。
――今、改めてこの曲と向き合ってみて感じることはありますか。
藤原「自由だな」と思いますね。当時はまだ「これはやっちゃダメ」みたいに自分の中のルールが生まれていないときで、例えば、歌詞のなかに“朝”という言葉が最初と最後に出てくるんですけど、今だったら同じ言葉を2回使いたくないのでこうはならないと思うんですよ。だけど、この歌詞はこれでいいと思うし、自分がこれまでに培ってきたノウハウめいたものは当てにならないんだなと、今回リフレッシュさせてもらったような気がします。
――僕の勝手な感想なんですけど、aikoさんのアルバム『秋 そばにいるよ』がラストの「心に乙女」というバラードでグッと締まるのと同じように、この曲は大きな役割を果たしていると思うんですよね。
藤原いやぁ、それは最上級の褒め言葉ですね!チームとしても「あ、その曲を入れるのはいいね!」ってサクッと話が進んだので、すごくうれしかったです。
――ところで、『HELLO EP』というタイトルになったのはなぜでしょうか。
藤原1曲目の「HELLO」が今一番ヒゲダンが表現したい音楽だということと、「新たな世界との対峙」という意味合いもあって。
――なるほど。
藤原それはこの4曲に共通するものでもあって。例えば、「パラボラ」では突き進むことの大切や潔さを過去の自分に教えてもらうし、「Laughter」には自分の生きがいが何かを教えてもらうしっていう具合に、自分の知らない世界観との対峙を歌った曲が揃ったこともあって、『HELLO EP』がハマるんじゃないかと。ほかのタイトル候補があったわけでもなく。
――満場一致で決まったんですね。
小笹議論があった覚えもないですね。
藤原『HELLO EP』って、語呂もいいですよね。口に出して言いたくなる。
――そうですね! 話は戻りますが、「夏模様の猫」以外の3曲はすべてタイアップ曲です。藤原さんはよく、「タイアップはコラボ」とおっしゃっていますが、この言葉についてもうちょっとお話いただけますか。
藤原タイアップというのは、“仕事を受注して”つくってるわけではないということなんですよね。これ、微妙な言葉のニュアンスなんですけど。それは僕たちだけじゃなく、一緒にやらせてもらう相手のチーム側も同じだと思うんです。つまり、「こういう曲をつくれ」と発注されているわけではなくて、例えば“やさしさ”というテーマがあったとして、向こうのチームが思ってる“やさしさ”とヒゲダンが思う“やさしさ”は違うかもしれなくて、デモ音源のキャッチボールを通じて一番ハマる“やさしさ”を一緒に探していくっていう作業だと思うし、それはつまりコラボなんですよ。相手から提示してもらったテーマを4人で咀嚼した結果、何ができるか考えるっていうことなんです。
――相手から曲のイメージを提示されるほうが作りやすかったりするんですか。
藤原それは別にどちらでも大丈夫ですね。丸投げしてもらっても構いませんし。「コンフィデンスマンJP」チームは「こういう曲のこういう感じ」っていうふうに具体的に楽曲を挙げてくださいますし、チームによってやり方が違うから楽しいですね。
――混乱とか戸惑いはないんですか。
藤原ありますよ! 「これはどういう意図なんだろう?」って考えることはあります。でも、しょうがないですよね。こっちは音楽しかやってきてないし、向こうのチームには自分たちなりのノウハウとか監督や作者の方の意図もあるわけで、こだわりとか見えているものが違うじゃないですか。だから、向こうが言ってることがすぐには理解できないときはもちろんあるんですけど、僕らには時間が十分用意されてることが多いし、楽曲のキャッチボールでよりよいものが生まれていますね。
――今回の3曲は全く異なるタイアップ作品でありながら、しっかりと1本の軸がありますね。
藤原メンバーとしっかり話し合ってアレンジを練る時間があったので、そのおかげで生まれた一貫性なのかなと思います。
――僕、今作では「HELLO」が一番好きで。ライターの表現としては稚拙過ぎるんですけど、単純に元気が出るんですよね。
藤原いや、それが正義ですよ。
――メロディもいいんですけど、この曲を数段上に押し上げているのがビートだと思っていて。ここにたどり着いたのはどういう流れだったんでしょう。
藤原これはできたときからこんな感じだったよね。
小笹ドンダンドンダンっていうリズムは決まってたけど、細かいところはレコーディングでめっちゃ詰めたよね。
松浦ドラム録りは死ぬほど時間をかけました。激しいところも、平歌のどっしり落ち着いたところも全部録るたびにメンバーに聴いてもらっていました。それで、「こういうふうにしたら?」って逐一提案してもらって、それを叩いてまた聴いてもらって……いいテイクが取れるまで1バースごとに繰り返し録ってましたね。
――1バースごと! それはすごく細かいですね。そして、そこに絡むベースもよくて。
楢﨑ありがとうございます! でも、ベースで気をつけたのは、ドラムの細かいニュアンスが伝わればいいなと思ってたぐらいで、僕的にはすごくシンプルなことをやるだけでした。ベースで何かおいしいことをやってやろうっていう気持ちがまったくなかったんですよね。曲全体が鳴ったときに大事なのはドラムなんです。
――たしかに、ドラムの音色はすごくいいと思います。
松浦アリーナツアーで使おうと思ってた新しいドラムセットを使ったんですけど、バスドラとかスネアに関してはエンジニアの方に「もうちょっとパキッと前に出る感じにしてほしい」って頼んだり、生音にサンプリングをちょっと貼り付けたりしてます。
――そこまで細かくこだわったからこそ、これだけ素晴らしいビートになるんですね。納得です。
楢﨑これからバンドを始めるみんなにメッセージがあります。
――はい、なんでしょう。
楢﨑曲はスネアで変わるんで気をつけてください! 本当に!
藤原そのとおり。
楢﨑これ、叩き手の問題じゃなかったりするんですよ。スネアが変わると曲が変わるんですよ。だからみなさん! 覚えといてください!
小笹ドラマーは絶対マイスネアを持っとったほうがいいし、ギタリストはマイアンプを持っとったほうがいいし、ベースは……一番お金かからないか(笑)。
楢﨑バカ!(笑) 弦が高いんだよ!
藤原キーボードはランニングコストがゼロだから! でも、ボーカリストは喉のメンテにお金がかかるんだよな~。
――(笑)話を戻しましょう!
藤原この曲がどっしりしているのには理由があって。去年、バンドの状況が変わって、今まで以上にたくさんの方にヒゲダンの音楽を聴いてもらえるようになるっていうありがたい状況になりまして。でも、たくさんの人が応援してくれてるのに、僕は部屋のなかで孤独を感じることが多かったんです。そんなときにメンバーやヒゲダンチームのみんながどれだけ自分の支えになっていたのか実感したし、SNSで配信をやったときにたくさんの人が書き込んでくれたコメントを通じて、血の通った何かを感じることもできて、それが自分を孤独から救い出してくれたんです。
――なるほど。
藤原この曲で大事にしたかったのは、ともに日々を生きていくときの心強さなんですよね。助けてもらってばかりではなく、自分もその人たちの力になりたい。それは言い換えると切磋琢磨ということで、あくまでも対等。だから、肩を並べて歩くときにどんな憂鬱が降りかかろうとも、それを跳ね除けていけるような、どっしりと大きく構えていられる曲であってほしかったんです。
――ああ、そうだったんですね!
藤原なので、「HELLO」は歌詞とメロディとグルーヴ感のうちどれが欠けても成立しない、三位一体の曲なんです。なので、この曲を聴いて心強く思ってもらえたらうれしいですね。
――その感じ、もろに伝わってます。
藤原だとすれば、Official髭男dismの目論見は成功!ってことですね。幸せですね。美味しいお酒が飲めそうです。
――あっはっは! この曲は松浦さんのビートを中心にタイトにデザインされたアレンジに仕上がっていますが、2サビの直前で入ってくるギターの「ティティティティティティッ」っていうハーモニクス(ギターの特定のフレットに指を触れて、弦を弾いた後に指を離すことによって出る高音のこと)が心地いい違和感を生んでいて面白いですね。
小笹そこ、めっちゃ好きで! 弦の押さえ方が大変なのでライブで再現するのはめちゃめちゃ難しいんですけど(笑)、あそこは自分でもすごく気に入ってるので、みんなにも注目して聴いてもらいたいです。
――ところで、ヒゲダンの曲ってコーラスの入れ方にいろんなパターンがありますよね。
藤原そうですね。メンバーの声を重ねたり、僕の声を重ねたり、あとはボーカルシンセっていう「HELLO」でも使ってるボコーダーみたいなものもあって。
――「HELLO」のサビでうっすら鳴ってるのがそうですか?
藤原そうですね。
――コーラスの入れ方ってどうやって決めてるんでしょう。
藤原「ここ、ちょっと生声で試してみたいんだけど」とか「ここはボーカルシンセのほうがハマると思う」っていう話をみんなでして、試してみて、よかったものを採用するっていう形ですね。
――セオリーというか、お決まりのパターンみたいなものがないんですね。
藤原こうきたらこう、みたいなのがよくわかってないし、わかる必要もないと思ってて。
楢﨑たまに意見がわかれたりもするんですけど、だいたいは聴けばわかるんですよ。
藤原そう、聴けばわかるんだよね。
小笹「HELLO」のサビも最初は生声で試したけど、ちょっと暑苦しく感じたんでボーカルシンセになりました。聴けばわかるんですよ。だからセオリーはない。ハマりそうだなと思ってハマらないこともあるけど、試す時間さえあればどっちがいいかわかるんです。
藤原そうなんですよ。頭で鳴ってても実際にやらんとわからんのですよ。「やってみよう」なんですよ。本当にそのバイブスだと思うんです。でも、バンド活動を続けるなかで選択肢は増えてきたかもしれないですね。
楢﨑ボーカルをダブったり、ウィスパーを入れたりね。
――いやあ、興味深い話です。では、「パラボラ」の話に移りたいと思います。こちらは新生活をテーマにした楽曲ということですが。
藤原カルピスのCMとして春夏に流れると伺っていて、最初の話し合いのときに「真っ白さみたいなものがあったらうれしいです」というカルピスさんチームからの言葉を受けてつくっていったんですけど、新社会人とか大学生みたいに新しい環境に飛び込む人たちばかりに向けた歌が歌いたかったかというとそういうことではなくて。新年度になると誰しも仕切り直し感が出るものだし、僕自身、新○○人というわけではないので、そういうことはあまり気にせずつくろうと思って。
――なるほど。
藤原なので、この曲で大事にしたかったのは、若かりし頃の自分というか。人はときにそれを“黒歴史”と呼んだりしますけど、若いときって今よりも物を知らないじゃないですか。やっちゃダメなこともわからないし、やるべきだったこともわからない。でも、何も知らない頃……例えば、高校生のバンド組みたての頃なんてとにかく音楽が楽しくて、音楽をやることばかり考えてて、僕は当時ドラムをやっていたので、自転車にカタパルトみたいにドラムの機材をくくりつけてチャリを漕いだり……そういう頃の無敵感というか、過去の自分がいかに自由に生きていたかということを思い出すことで勇気をもらえたりするんですよ。なので、ここでは昔の自分に教わる“突き進むことの大切さ”を描きたかったんです。
――歌詞にひと言もでてこない“パラボラ”という言葉がタイトルになっているのもいいです。
藤原自分の人生がグラフみたいになっているとしたら、どんな曲線を描いて進んでいくんだろうっていう。みんなそれぞれ違う人生を歩んでいるけど、過去、現在、未来の自分はひとつの線の上に成り立っているわけで、昔の自分に救われる今の自分がいるとするなら、今の自分も未来の自分がお手本にできるような人間でありたいっていう。パラボラは放物線という意味なんですけど、この先どういう放物線を描いていこうかという気持ちを込めてこのタイトルになりました。
――サウンド面に関してはいかがですか。「HELLO」と比較的近いつくり方なのかなと感じましたが、実際のところはどうなんでしょうか。
藤原真っ直ぐなアプローチ……例えば、生ドラムばかりのアプローチだとこの曲はありふれちゃうんです。なので、ビートメイク色を強くして細かくやらせてもらいました。そっちのほうが今のヒゲダンがやる意味があると思えて。「HELLO」も「パラボラ」もビートのパルスはどちらも大きいですけど、間を細かく埋めていくかどうかというところで違いが出ていますね。
松浦質感としては生っぽいところがあるんですけど、さとっちゃん(藤原)やエンジニアの方と話し合いながらビートの大枠を作って、平歌での細かい刻みとかをさとっちゃんに凝ってもらったって感じです。ああいう音を入れることで楽曲に推進力が出るし、生でやるのとは全然違いますよね。
――ギターに関していかがでしょうか。
小笹この曲ではテクニカルなことは一切やりたくなくて、青春というか、青さみたいなものが出せたらと思って弾きました。
――小笹さんのギターは楽曲によってグッと前に出てくるときと裏方に徹するときとで大きく違いますね。
小笹それは常に考えていて。ギターの音がずっとデカいのは好きじゃないし、カッコよくないフレーズも弾きたくないんですよ。だから、引くべきところでは引いたほうがいいと思ってます。
――続いては「Laughter」です。こちらは映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』のテーマソングということで、壮大なロックナンバーになりました。
藤原東京に出てくるときの心得、みたいな。少なくとも僕にとって、それはこの歌詞にあるようなことだったなって。この歌詞で何を鳥に例えているかというと、“自分がやりたいことへ向かうひたむきな心”なんですよ。僕が上京前にサラリーマンをやっていた頃、仕事は大変だったけどやりがいはあったし、仕事を通じて出会ったかけがえのない人たちもたくさんいるんですけど、一番しんどかったのは音楽をやる時間がどんどんなくなってしまったことで。
――うんうん、そうなってしまいがちですよね。
藤原仕事が終わってからスタジオに入るにも時間は限られてるし、今みたいにみんなで細かくみちみちにアレンジすることもできなくて。で、そんなときに上京するかどうかという話になって、親は飯が食えるかどうかを心配するし、人によっては「本当にやれんの?」みたいなことをたくさん言ってきて。でも、やれる/やれないじゃなくて、音楽をやる人生が一番幸せだと思ったからこそ東京に出てきたんだっていうことを詞として表現できたらと思って、この曲が出来上がりました。
――この曲でいうと、“揶揄”なんかもなかなか使わない言葉ですよね。
藤原これはハマりがよかったんですよ。難しい言葉だし、漢字で書けないですけどね。僕はこういう言葉を使うのは全然いいと思っていて、ハマりが面白いと思ったら迷わず使うようにしてます。「Pretender」に出てくる“否めない”もそうですね。あまり使わないじゃないですか。
――でも、それがいいんですよね。前作でいうと「最後の恋煩い」の“生前贈与”もそうだし。
藤原ああ、“生前贈与”もリズミカルに歌うとファンクと相性がいいんですよ。あれは楽しかったですね。
――さて、この曲にはストリングスが入ってますが、これは最初から決まっていたんですか。
藤原初期段階から「入れたほうがいいかも」っていう話にはなっていたんですけど、ストリングスよりもバンドサウンドがメインであってほしいという思いがあって。よくハードロックバンドがバラードをやるじゃないですか。映画『アルマゲドン』のAEROSMITHみたいに。あれもストリングスが入ってるけど、しっかりバンドサウンドが主軸にありますよね。ああいう壮大さがほしかったんです。
――松浦さんはどうでしたか。
松浦僕にとって初めてのビンテージのドラムセットをこの曲のレコーディングで使いました。それがものを言ってると思います。完全にいい音で録れました。最初はシンプルに聴こえたんですけど、あとから弦が入ったことでしっくりきましたね……さとっちゃんに質問したいことがあって、これはどこまで完成系を見込んでつくってたの?
藤原ストリングスが入れば壮大にはなるからね。今回はストリングスチームにざっくりと方向性を伝えてたんですけど、いざ録ってもらったらすごかったですね。僕、涙が出ましたもん。「なんて美しいんだろう!」って。僕もこんなにヤバいストリングスが入るなんて想像してなかったですね。
――藤原さんの鍵盤はどの段階で入るんですか。音色も曲のなかでよく変わるし。
藤原曲を作るときにイメージしてます。弾き語りするときも「ピアノよりもエレピのほうがハマるな」とか、「ここのメロディは鍵盤楽器だけどシンセのほうがいいな」とか。今はパソコンで音色をすぐに変えられるから、いろいろ試せてけっこう便利ですね。
――ああ、そうか。比較的ラクに様々な挑戦ができるわけですね。アレンジはかなりみっちり話し合うんですね。
楢﨑みちみちです。「どう思う?」「うん、それでいいと思うよ」とか「俺はこれがいいと思うんだけど、どう?」っていうやり取りは大事だと思います。
――ボーカルに関しては、いつもと変わらず素晴らしいわけですが、藤原さん的に新たに意識したことはあるんですか。
藤原まだまだではあるんですけど、低い声に芯が出るようになってきたかなっていうのはあります。あと、キーの一番高いところがほかの曲に比べるとちょっとやさしめなので、歌いやすくはあったかもしれないですね。でも、今までどおり感情もすごく込められたし、大きく変わったところはないと思います。
小笹キーが低くなった分、ニュアンスが出しやすくなったのかもしれない。歌録りのディレクションとセレクトはめっちゃ楽しかった覚えがある。
藤原みんながやってくれたもんね。ボーカルに関しては僕よりもメンバーに聞いてもらったほうがいいかもしれませんね。
――歌のテイクは藤原さん以外のメンバーが選ぶんですか?
小笹そうですね。体力的に不可能なんですよ。歌うのとテイクを選ぶのを同時にするのは無理だし、歌う人は歌に集中したほうがいいんですよ。
楢﨑全楽器そうだよね。
小笹そうそう。ブースに入ってる人は演奏に専念してもらって、残りの3人がコントロールルームで聴くっていう。だから、テイクがよかったか悪かったかっていう判断はほかのメンバーに任せます。
藤原「Pretender」ぐらいからその傾向が強くなってきましたね。
小笹「Pretender」の前までは以前のエンジニアさんがやってくれてたんですけど、「Pretender」のときに「あれ? そういえば、歌のディレクションって誰がして、テイクは誰が選ぶんだろう?」ってなって、メンバーでめちゃめちゃドキドキしながらやりました(笑)。今の方法であってるかどうか未だにわからないんですけど、この形になってから圧倒的に歌録りが楽しくなりましたね。
藤原一番近くで自分の声を聴いてくれてる3人だから僕もすごく納得できるし、信頼してます。僕はいつもすごくいいテイクを選んでくれてると思ってるから、これからもこのまま進むんじゃないかと思います。
――美しい話ですね! では、改めてボーカルについて聞かせてください。
小笹「HELLO」のAメロには下への難しい跳躍があるんですけど、ここのニュアンスがすごくよくて。あと、2番Aメロの“人生に迷うたびに”は神がかってたと思う。僕は、歌ってる本人からすると「ちょっとやりすぎたかも」って思うぐらいのテイクを他人が拾ってあげるのが大事だと思っていて。さとっちゃんから「これ、クセのあるテイクだけど選んだのは故意だよね?」って聞かれて「そうです」って言ったら、「ああ、そういう狙いがあるならそれでいいよ」って。
――へぇ~。
小笹そういう意味では、Bメロの“狂ってく感情”も、歌詞との親和性が高かったからという理由でニュアンスの強いテイクを選んでいます。普通の歌詞を歌っているところでそういうテイクは選ばないですね。
――では、変な質問をしますけど、今回の収録曲にそれぞれキャッチフレーズをつけるとしたら何になりますか。
藤原『HELLO EP』としては、“ヒゲダン流大文字ロック”ですね。小文字の“rock”じゃなくて、大文字の「ドーン!」とした“ROCK”。そして、「HELLO」は“ヒゲダン流水戸黄門”。助さん格さん黄門さまが3人で歩いてる感じって無敵感ありません? 世間の憂鬱や不安に対してそういう姿で向き合いたいっていう気持ちです。“Official髭男dismの印籠”こと「HELLO」。
楢﨑『印籠EP』(笑)。
――「パラボラ」は?
藤原曲の歌詞に出てくる言葉を使って、“ララルラ 鼻歌 パラボラ”。
――では、「Laughter」。
小笹“ヒゲダン流A Whole New World”。『コンフィデンスマンJP プリンセス編』のプロデューサーからそういうオーダーがあって。
藤原打ち合わせしたときに、「これ、笑っていただいて構わないんですけど、今回はヒゲダンさんなりの『A Whole New World』っていうのはどうでしょう?」って言われて。
楢﨑その瞬間、空気がザワザワして(笑)。
藤原あれは咀嚼に時間がかかりましたね(笑)。この曲ができあがったあとにディズニーランドに行ったんですけど、けっこう根を詰めて書いた歌詞だったから、アトラクションで「A Whole New World」が流れたときには反射的に涙が出ました。
――では最後、「夏模様の猫」です。
藤原“島根県松江市菅田公園”。そこを舞台にしたわけじゃないんですけど、なんとなくそういうテンション感ですね。松江の街灯って犯罪防止のために青くなってるんですよ。そのあたりの楽曲かなと。
――今回、初回限定盤には、2月10日に行われた「Official髭男dism Tour 19/20 -Hall Travelers-」のパシフィコ横浜 国立大ホール公演の映像とツアーの裏側を収めたDVDが付きます。見どころを教えてもらえますか。
藤原アルバム曲を特に楽しんでもらえたらと思っています。延期になったアリーナツアーではアルバム曲をたくさんやろうと思ってたし、テレビでアルバム曲を歌唱させてもらう機会もなかなかないですから、ここで楽しんでいただけたらと思います。
――いつかまたライブができるようになったとき、ステージでの第一声はどんなものになるんでしょうね。
藤原内容はわからないけど、雄叫びですね。
楢﨑とりあえず叫ぶ(笑)。
藤原言葉にならないかもしれない。まあ、実際に上がってみないとわからないですね! その日を楽しみにしながら、日々ポジティブに暮らしていきたいです。楽しみだからこそ、「あまり決めんとこ」って思います。
ライター:阿刀“DA”大志